会話形式悩み相談ロング

FとMのダイアローグ④

理解したことを伝え返す

M
今回はテーマを「理解したことを伝え返す」について対話したいと思います。Fさんが大切にしていることを教えてください。

F
あなたは相手に理解してもらえたと思えたときってどういう場面でしょうか。
30分“うん、うん”、“そうだよね”と聴いてもらえた場面でしょうか。
“本当に伝わってるのかな?”と不安になりませんか。
一言二言(ポイント)、自分なりに理解したことを伝え返すということをやってみてください。
“それは大変だったね”
“さっき話してくれたことはこういうことなのかな?”
“もし私があなただったらこう思うかも”
“私の経験でも同じようなことがあってね、、”
など自分の内側からでる素直な気持ちを言葉にしてみてください。

M
話の流れの中でポイントを伝えるのは難しい場合もあると感じています。
理解が難しい場合は、相手の言葉を繰り返すだけでも意味はありますか?
また、話がまとまらない相手の場合は内容を再構成して返すこともあるのでしょうか?

F
相手の言葉を繰り返す方法や再構成して理解したことを伝える方法は、カウンセリングのテクニックとしてあります。話された文章すべてを繰り返さなくても、例えば今であれば
“なるほど、ポイントを伝えるのが難しいんですね”と、相手が言いたいであろう重要な部分を繰り返したり、
“意味があるのかどうかを、疑問に思われているんですね”と、相手の体験や気持ちに焦点を当てて言葉を繰り返すなどの方法があります。
再構成して理解を伝え返すテクニックは、長々と話が続いてしまう相手の場合や、言いたいことがうまくまとまらない相手の場合は特に有効だと思います。
“~と、いうことでよろしいでしょうか?”
“~というふうに、感じられてきたんですね”
など多少言い換えがあっても再構成してまとめて伝え返すと、例えそれが相手の話を途中で遮るような形であっても伝わったと感じてもらいやすいです。
正確にやろうと思う必要は全くなく、『自分なりの』スピード感や表現の仕方で理解を伝えることが本質的に重要だと考えています。

実は今お話したようなテクニックは、AIに多く組み込まれています。
言葉の正確性や情報量、記憶量に人間はもう敵いません。
AIにカウンセリングのテクニックが組み込まれ散りばめられているため、相談すると『理解してくれている』と感じられます。
多少エラーもありますが、それも指摘すれば文脈から何度でも再構成して解釈してくれたり、新たな概念を見つけ出しぴったりな言葉に言い換え発展させ、気づきまで与えてくれるようになりました。
それでも、『理解してもらえた』と思えるときもあれば、『全然わかっていないな』というときがありませんか。

私は、『自分なりの理解』を相手に想いを込めて伝え返すことは、人間にしかできないことなのではないかと思い至りました。
自分なりの理解には価値観、経験、生き方など、その人らしさが含まれます。
相手の望む言葉や表現ではないこともあるでしょう。
受け取るタイミングではないときもあるでしょう。
わかってほしい気持ちとずれてしまっていることもあるでしょう。

そこが大切なのです。

ちがったら『ちがう』と言ってもらい、そこからまた対話を続ければよいのです。
人間同士の対話では完全な理解というのは起こり得ません。
完結しないからこそ、対話が続くのです。
重要な相手との関係性が続くのです。

人間という生き物は、本来自分の欠けているところを他者と補い合い、支え合っていく社会的な生物であるためです。
それが本来の、私たち生物としての在り方なのです。
理解を伝えてそれに対して話し合い、お互いに理解し合おうという努力の繰り返しです。
時間をかけて話し合う、理解し合うプロセスに、意味と価値があると私は考えて生きています。
『聴く』ことの次にはぜひ、思い切って『理解したことを伝える』ことを、やってみてほしいと思います。

M
自分なりで良いと考えると気が楽ですね。勇気のでる言葉、ありがとうございます。
万能なコミュニケーションなどこの世には存在しないから、対話をするという真理を教えていただいたと感じます。
私は短時間にできる限り相手の良さを引き出したいと考えているので、勝手に自分へのハードルを上げているかもしれないと気付きました。
最後に、今回のテーマ「理解したことを伝え返す」の中に、具体的なアドバイスなどを含めながら伝えることについてどのように考えますか?タイミングや手法などの具体的なスキルはありますか?
このダイアローグは組織をマネジメントする立場の人に読んでもらえるように考えています。管理職の立場としては部下を理解しつつ、適切に助言をすることが求められます。ケースバイケースだとは思いますが、部下が理解されていると感じて、さらに方向性を示してもらっていると受け取れるような流れがあれば教えてください。

F
タイミングに関しては、伝えたい相手の時間的、精神的に受け取ってもらえる余裕があるときがよいのではないでしょうか。
始業開始時(始業準備でやることが多く忙しい、呼び出しのように受け取られやすい)や帰り際(助言がどう響いたか反応が見えないので一方的になるリスクあり)は避けて、仕事中の合間でタイミングを探すのがよいかもしれませんね。
助言内容が組織全体の課題も含むような事柄であれば、会議やミーティングの場で伝えられるとチームとしての成長になると思います。
個人への助言であっても、それを聞いている他の部下も意見したり感想を述べたりといった集団内での動きが生まれますよね。
すぐに受け入れてもらえないような厳しい助言内容であっても、それが真理で組織と社員の幸せに繋がるのであれば、部下同士で愚痴をこぼしあってサポートし合ってたくましく成長してくれるのではないでしょうか。
明らかに個人の課題で個人成長の為であれば、個別に時間をとって助言したほうがよいと考えます。
助言内容により、適切な方の同席やどの部屋を使うかどうかはよく検討した方がよいでしょう。
まだ部下との信頼関係ができていない場合は、その部下と関係ができている(できそうな)社員の同席をお願いするとか、二人きりで話すべきことだけど警戒される可能性があれば密室ではなくオープンスペースを選び、パーテーションやカーテンなどゆるやかに区切られるような場所で話すとかそういった構造上の配慮がとても大切です。
意外に思われるかもしれませんが、実は助言内容の素晴らしさと等しいかそれ以上にこういった事前準備が成功と失敗を決めていることも多いのではと思います。
気になったことがあれば、ぜひやってみてください。

M
アドバイスありがとうございました。
助言内容を精査することに意識を向けるので、タイミングや環境を整えることが盲点になっている人も多いのではないかと感じました。
チーム内のコミュニケーションを最適化する視点についても大切と感じました。今日のアドバイスが明日からのチーム活性化につながる一歩になると幸いです。