『箱』
『箱』
わたしはいま
透明の箱の中にいる
それはパズルでできていて
一個壊せば ぜんぶ崩れる
そうしたら箱から出られるのに
そうしたら自由になれるのに
その一個が壊せない
失うものが大きい気がして
そうしたら自分が
なくなる気がして
あのとき 壊したかった一個は
いまもまだこの手の中にある
痛みを強さに変える そのときのため
そっと 持ったままでいる
(F)
変わりたいのに、変われない。手放した方がいいとわかっているのに、どうしても壊せないものがある。
変われないのは弱さじゃなくて「守ってきたもの」があるからかもしれない、ということ。
「個性」と「求められる役割」の間で揺れていた12歳のときに書いた詩です。最後の4行を付け加えました。
まず、「透明の箱」という表現。
これは、外からはよく見えているのに、内側にいる自分は出られない状態を表しています。
役割で言えば、「周囲からは評価されている」「期待されている」一方で、自分自身はどこか窮屈さを感じている状態です。つまり、“見えている自分”と“感じている自分”のズレです。
次に、「パズルでできている」という構造。
この箱は、過去の選択、学業成績、キャリア、家庭、人間関係、信頼、評価など、一つひとつのピースで成り立っています。
どれも大切で、積み上げてきたものだからこそ、「一個壊せば全部崩れる」と感じてしまう。
役割と個性の葛藤とは、「このままの自分でいいのか」と思いながらも、「変えたら今までの価値が失われるのではないか」という恐れと隣り合わせにあるものです。
そして核心は、「その一個が壊せない」という一行です。
自由になりたい気持ちはある。変わりたい気持ちもある。けれど、“何か一つを手放すこと”が怖い。
それは周囲から理想とされる“よい子”や“よいお父さん・お母さん”かもしれないし、役職かもしれないし、評価されてきたやり方かもしれないし、“こうあるべき”という自分像かもしれません。
さらに詩はこう続きます。
「失うものが大きい気がして」
「自分がなくなる気がして」
ここは、多くの人が抱える本質的な不安を示しています。
私たちはいつの間にか、自分の本質を、これまで積み上げてきた役割や成果と結びつけすぎてしまいます。
だから何かを変えることは、
「それを手放したら、自分じゃなくなる」
「今の自分が終わる」
というような感覚になるのです。
では、この詩から得られるヒントがあるとすればなんでしょうか。
それは、「壊す=すべてを失う」ではない、という視点です。
パズルは確かに繊細ですが、本来は「少しずらす」「組み替える」「もったまま外に出る」ように、選択肢にもグラデーションがあるはずです。
つまり、今の自分を否定してゼロにする必要はなく、「一部を緩める」「配置を変える」こともまた変化といえるのです。
たとえば仕事でいえば、
・全部を変えるのではなく、ひとつのやり方だけ変えてみる
・役割は維持しながら、関わり方を少し変えてみる
・「こうあるべき」を一つだけ手放してみる
そうした“小さな再配置”でも、箱の中の空気は変わります。
この詩が示しているのは、
「壊せない弱さ」ではなく、「それだけ大切にしてきた証」です。
だからこそ無理に壊す必要はありません。
ただ、“壊すか守るか”の二択ではなく、“少し動かす”という第三の選択肢に気づけたとき、個性は葛藤から解放され、しなやかに働き始めます。
役割における個性とは、守るものではなく、調整しながら使っていくもの。
だからもし、また同じような感覚に触れることがあったら、
「これは終わるんじゃなくて、切り替わる前触れだな」と少しだけラベルを変えてみたいと思います。
社会の中で個性が輝く未来がやってきますように。(F)
