自分の能力って何?
Aさん(30代・新任マネージャー)とBさん(50代・役員)の会話
Aさん:「B取締役、実は最近すごくプレッシャーを感じていまして……。マネージャーに昇進させてもらいましたけど、正直、運が良かっただけだと思うんです。いつか『実は全然実力がない』って周りに知られてしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしています。」
Bさん:「自分の力ではなく、周囲を誤解させて昇進したように感じているんだね。具体的には、どんなところに自信が持てないのかな?」
Aさん:「他のマネージャーを見ると、資格を持っていたり、圧倒的なプレゼン力があったり、誰が見てもすごいスキルを持っていますよね。それに比べて私は、日々の業務を普通に回してきただけで、特別なことは何もしていない気がします。」
Bさん:「その『普通に回す』ことが、どれだけ大切か気づいていないのかもしれないね。君は部署間で揉め事が起きる前にすっと間に入って、いつの間にか笑顔で話をまとめている。あれは誰にでもできることじゃないよ。」
Aさん:「えっ? いや、あんなの、ただ相手の話を聞いて、少し調整しているだけですよ。誰にでもできることをやっているだけで、特別なスキルだとは思えません。」
Bさん:「そこだよ、Aさん。自分にとって自然にできることだからこそ、価値があると気づきにくいのかもしれない。苦労して身につけたことは能力として認識しやすいけれど、自然にできることは見落としがちなんだ。試しに、チームのメンバーに『私の良いところって何?』と聞いてみたらどうかな。」
Aさん:「人に自分の良いところを聞くんですか? なんだか恥ずかしいです。部下から『話しやすくて助かります』と言われたことはありますけど。」
Bさん:「それは君の強みの一つだと思うよ。安心して意見や悩みを話せる雰囲気づくりに、君の関わり方が役立っているのかもしれない。自分の成功を『たまたま』や『運』だけで片づけてしまうのは、もったいないんじゃないかな。」
Aさん:「そうか。私の関わり方が、安心して話せる雰囲気づくりに役立っていたんですね。プレゼン力や知識など、自分に足りないものばかり見て、勝手に自信をなくしていたのかもしれません。」
Bさん:「人はつい周りと比べてしまうからね。でも、自分では気づいていなかった強みが見えてきたら、次はそれを意識して伸ばしていける。その強みに別のスキルを掛け合わせるのもいい。そうした経験は、君と同じように『自分には何もない』と悩む次の世代を支える力にもなるはずだよ。期待しているよ。悩みを打ち明けてくれたことで、私も君の強みに改めて気づけた。話してくれてありがとう。」
自分の能力や貢献を正確に捉えることは、思いのほか難しいものです。
「私なんて大したことない」
「運が良かっただけだ」
周囲から評価されていても、自分の成功を実力ではなく運や偶然のおかげだと感じ、「いつか自分の力不足が知られてしまうのでは」と不安になることがあります。こうした感覚は「インポスター現象」と呼ばれ、「インポスター症候群」と表現されることもあります。正式な診断名ではなく、成功や能力を本人がどう受け止めるかを表す言葉です。
私たちは、周囲と自分を比べてしまうことがあります。「あの人にはすごい資格がある」「この人には圧倒的な実績がある」と、目に見えやすい他人の強みと自分を比べて、「自分に足りないもの」ばかりに目を向けてしまいがちです。
けれど、自分にとって自然にできることは、強みとして見落としやすいものです。
・特に意識しなくても、人の話を引き出せる
・無意識のうちに、物事の段取りを整えている
・気づけば、その場の空気を和らげている
本人は「こんなの誰にでもできる」「ただ普通にやっているだけ」と思っているため、それが周囲にどう役立っているかに気づかないことがあります。
自分の背中が自分では見えにくいように、自分の自然な強みも自分だけでは見つけにくいものです。だからこそ、「私の良いところや強みって何だと思う?」と、信頼できる人に尋ねてみるのも一つの方法です。
「どんな場面でそう感じた?」と具体的なエピソードも聞いてみると、自分では気づかなかった貢献が見えてくることがあります。周囲からのフィードバックを、実際の成果や経験と照らし合わせることで、自分の強みをより具体的に捉えられるでしょう。
自分の強みが見えてきたら、それを意識して伸ばしていけます。見つけた強みに、新しい知識やスキルを掛け合わせるのもよい方法です。たとえば、「自然と人の話を聞ける力」に「データ分析力」を加えれば、現場の声と数字の両方を踏まえた判断につなげられるかもしれません。
そして、「自分には実力がない」と悩んだ経験も、これから誰かを支える力になることがあります。
部下や後輩の中にも、「自分には何もない」と悩んで立ち止まる人がいるかもしれません。そんなとき、「実は私も、自分は運が良かっただけだと思っていた」と自分の経験を伝え、その人自身が気づいていない強みを一緒に見つけていく。
そのような関わり方も、リーダーシップの一つではないでしょうか。
