なんとかなる
「きっと大丈夫だ」
「なんとかなるさ」
私たちが不安に押しつぶされそうな時、この言葉は心の安定剤になります。
友人や家族を励ます言葉として利用される人も多いのではないでしょうか。
ただ、この「楽観性」という感情が、時としては毒になることを、私たちはあまり意識していません。
世の中では「ポジティブ思考」が良しとされがちですが、今回はあえて疑ってみたいと思います。
あなたが抱いているその楽観性は、明日を切り拓く「武器」なのか。それとも、現実から目を背けるための「麻酔」なのか。
その違いは、たった一つ。「時間の矢印」をどこに向けているかで決まります。
少し時代を遡りましょう。古代、狩猟採集の時代です。
獲物が取れない日もあります。そんな時、人間に必要なメンタリティとは何だったでしょうか。
もし、「大丈夫だ。明日は空から肉が降ってくるだろう」と考える人間がいたらどうでしょう?
これは楽観的ですが、ただの「妄想」です。準備を怠ると、やがて飢えて死にます。
生き残ったのは、おそらくこう考えた人間です。
「今日は取れなかった。だが、この失敗で獲物の移動ルートは分かった。明日は挟み撃ちしよう。だから明日は取れるはずだ」
ここにあるのは、未来への根拠なき期待ではありません。
「過去(今日の失敗)」を「明日へのリソース」として肯定的に解釈する力です。
人類が絶滅せずにこれたのは、未来を夢見たからではなく、過去の事実に打ちひしがれず、それを「生存の糧」に変える「良い楽観性」を持っていたからです。
現代の私たちは、この「生存のための楽観」と「怠惰のための楽観」を混同しています。ここで明確に定義します。
【悪い楽観性】= 未来への逃避(怠惰)
【良い楽観性】= 過去の肯定(燃料)
【悪い楽観性】=「未来では、運良く事態が好転しているだろう」
【良い楽観性】= 「起きてしまった事実は変えられないが、それは学びであり、過程だ」
【悪い楽観性】= 思考停止状態。 今ここにある「違和感」や「不都合」を見ないふりをする態度。
【良い楽観性】=自己効力感を高める。 失敗という事実を、自分の成長の糧として解釈し直す態度。
具体例で考えてみましょう。
例えば仕事で上司と意見が合わず、話が通じなかったとします。
悪い楽観性(未来への逃避)に陥った人はこう考えます。
「あの人は頭が固いから言っても無駄だ。まあ、適当に避けていればなんとかなるだろう」
一見、諦めが良くストレスフリーに見えます。しかし、これは「対話する」という行動から逃げているだけです。
「相手が変わる」ことや「問題が風化する」という、コントロール不可能な未来に期待している。これは怠惰です。
良い楽観性(過去の肯定)を持つ人はこう考えます。
「話が通じなかった(事実)。これは、自分の考えがまだ浅く、説明の解像度が低かったからかもしれない(解釈)。逆に言えば、そこを埋めれば伝わる余地がある」
自分を責めているのではありません。「自分にはまだ伸び代がある」と、失敗した過去の事実をポジティブに解釈しているのです。だからこそ、「もう少し深く考えて、もう一度話してみよう」という次の行動が生まれます。
「良い楽観性」とは、今の行動につながるもののことを言います。
逆に、今の行動を止めてしまうような安心感なら、それは「悪い楽観性(麻酔)」であり、すぐに捨てるべきです。
未来に対しては、むしろ臆病でいい。
「うまくいかないかもしれない」と疑うからこそ、準備(行動)ができます。
しかし、一度起きてしまったこと、過去に対しては、徹底的に楽観的であるべきです。
「あれでよかったのだ」「あの失敗があったから今がある」
未来を妄想するな。過去を解釈せよ。
ポイントは事実と解釈を切り分けて考えること。
また、解釈は無数に存在すること。
それが、不確実な時代を生き抜くための、本当の「ポジティブ」の作り方かもしれません。
読者の皆さんが、今ここから楽観性を武器にして、毎日をより良くしていただけることを望んでいます。
共に悩みながら歩きましょう。
