育成

M

今回のテーマは、『育成』について対話していきます。

『育成』なんですけど、最近仕事とかいろんな場面で『これ、あの人じゃないと回らないな』っていう、いわゆる属人化している部分がちょっと気になっています。もちろん、その人の個性とか強みがあるからこそ成り立つ部分もあるとは思うんですけど、一方で『誰でもここまではできる』っていう一定のラインを、育成によって作れるといいのかな、なんてぼんやり考えていたので言語化する良い機会をいただきありがとうございます。

Fさんは、『育成』って言葉を最近どんな風に感じてますか?

F

職種や立場による見え方の違いもあるかもしれませんが、属人化が気になることには同感です。全体を見渡しその場で最適な判断ができるコミュニケーションスキルが高い人のニーズは、ますます高まっているように感じています。

育成に初めて携わったときに失敗した経験があり、その時は完全に自分の枠組みで相手を見ていました。あとは寄り添い過ぎて課題点が見えていなかった反省があります。なので仕事の様子や対話から、強みも弱みもバランスよく見渡すようにということは心がけていますね。それでも目上の方には優しすぎる、と言われるので試行錯誤です(笑)

職種ごとに必要な素地というか適正はありますよね。育成にあたってはまずそこを見極めるようにしています。どのレベルからスタートするか変わってくるためです。

誰でもここまではできるということについては、まず基礎となる社会スキルが大事だと感じています。「常識だから」という言葉に集約せず、社会のマナーやコミュニケーションスキルを具体的な場面を通して教える必要性も感じます。例えば報告連絡相談がなぜ必要なのか、ないとどう困るのか、などかなり丁寧に説明をします。

M

実は私も育成って結構苦手なタイプで(笑)。どこまで伝えたらいいのか、『厳しくなりすぎてもな』と躊躇したり、でも『伝わらないと意味がないしな』と思ったり、その匙加減が本当に難しいですよね。だからこそ、育成のプロセスをある程度『見える化』する指標ってやっぱり大事なんだなと、Fさんのお話を聞いて改めて思いました。

Fさんが言ってくださった『常識』の話もすごく共感します。というのも、その『このくらい分かっているだろう』っていう常識(暗黙知)って、実は人それぞれ全く違いますよね。それって過去の経験や感性だけじゃなくて、極端な話、その時の『身体の状況(体調やバイオリズム)』みたいなものまで絡み合ってできている気がするんです。

そう考えると、育成のステップとしては、まずは前提条件として『ここは学んでほしい』という共通の土台(少し抽象的な概念になるかもしれませんが)をしっかり共有しておく。その上で、現場の『適切なタイミング』を見計らって、具体的な場面と結びつけて伝えていくという両輪の関わり方ができると理想的なのかな、なんて感じました。

現場で『適切なタイミングを見極める』って、まさにFさんが言っていた『強みも弱みもバランスよく見渡す』という観察眼があってこそ生きる気がします。Fさんはこの『伝えるタイミングの掴み方』について、何か意識されていることってありますか?」

F

一般的な社会人経験がないので参考になるかわかりませんが、ニーズがあるときしか伝えないですね。育成のプロセスに関してもスキルや段階についての研究があり、スポーツや芸事と近いものがあると言われています。ある種の覚悟がない段階では、何を見せて伝えても響かないです。悩んで葛藤した上で助言を求められた時には、真面目に本音で伝えますね。

自分で考えずに“答え”を求められたときは、情報提供するようにしています。この本をまず読んでごらんとか、それならこの先生がご専門だから研修にいってみたらとか。主体的な行動に繋がるようにしています。時間をかけて、足を運んで、自分の頭を使って経験を積み重ねるしかないからです。

M

Fさんの『ニーズがある時しか伝えない』『答えではなく行動(本や研修)を渡す』という話、まさにスポーツや芸事の稽古に通じるものがありますよね。

その上で、育成においてやっぱり一番難しいのって『本人が成長したいと思っているか』『自己理解が進んでいるか』という点だなと、改めて考えさせられました。

実は最近、福祉の現場や特別な支援アプローチに触れる機会が多いのですが、客観的に見るとすごく困っていそうなのに、ご本人は『全く困っていません』と感じているケースってすごく多いんですよね。 つまり『困り感の自覚(自己理解)』や『こうなりたいという目標』が本人の中に芽生えていない段階だと、こちらが何を言っても響かないですし、そもそもFさんの言う『ニーズ』すら生まれないわけです。

だからこそ、まずは『今どう考えてる?』『これからどうなりたい?』と問いかけて本人に気づき(自己理解)を促すアプローチが不可欠なんだろうなと。

ただ、ここからがまた難しくて(笑)。 『常識で考えたら分かるよね』で片付けずに、例えば挨拶なら『目があったらする』『5メートル手前でする』みたいに、行動ベースで測定できるレベルまで具体化してあげることも大事だと思うんです。 でも、それをやりすぎると今度は『ロボットみたいなマニュアル対応』になっちゃって、今の時代だと相手から『うざったいな』って引かれちゃうリスクもある。

『本人の気づき(自己理解)を育むアプローチ』と『行動の具現化・ルール化』。この2つをどういう塩梅で組み合わせていくのがいいのか、やりすぎの塩梅も含めてすごく迷うところなんですが、Fさんはこの『本人がまだ課題に気づいていない段階での関わり』って、どうされていますか?

F

私ならということでお話させていただくなら、“客観的に見てすごく困っているのに、ご本人が困っていると感じていない”ということは本当なのかな?と疑うことから始めます。職場の関係性の中で抑えてしまっているだけ、まだ意識する機会がなく言語化できていないだけ、というケースが多々あるからです。経験的には8割くらいの方がそうです。

特に、上下関係や多少なりとも利害関係がある相手には、困りを見せることで評価が下がる不安がつきまとうことは当然です。評価をいったん脇に置いて、公平性をもって状況を見渡し困っているであろう方の話を傾聴する姿勢が求められると思います。相手の立場に立ってじっくり話を聴き、信頼を得ることが大切ではないでしょうか。

気づきを育むという点では、情熱をもって仕事を見せるようにしています。能力が追いつかなくとも、とにかく好きだけでここまでやってきたので(笑)、育成に関しても相手側の興味がある分野や、伸びしろがあるポイントを一緒にみていくことが好きです。なので少し話しが戻りますが、私の育成スタイルは“誰でも最低限ここまで”という考えではないんです。凸凹はそのままで伸びそうなところを探し、欠けているところはちゃんとわかっておいて工夫をしたり周りに助けてって言えるようになろう、と話します。

私の経験としては、グループワークでの育成を学んできています。ファシリテーターになって安全な場づくりをする形です。私自身、新卒時代から様々なグループでの学びを中心としてきて、自己理解を育むという点からみても、かなり効果が高いように実感しています。

M

Fさんの『凸凹はそのままで、欠けているところは周りに助けてと言えるようにする』『安全なグループワークで自己理解を促す』というお話、すごくしっくりきました。

実はちょうど先日、ある研修を受けてきたばかりなのですが、Fさんのお話とまさにリンクする学びがあったんです。研修の中で『言葉や状況の受け止め方は、育った環境や認知によって本当に十人十色だ』ということを改めて実感しました。そしてまさにFさんが仰るようなグループワークを通じて感じたのは、『自分のことって、実は自分が一番分かっていないんだな』ということです。

特に『自分の強みや得意なこと』って、本人にとっては息を吸うように当たり前にできちゃうことだから、自分では絶対に気づけないんですよね。それを他者から見てもらい、言語化してもらう機会(安全な場)があることの価値を痛感しました。

そう考えると、無理に欠点を直すのではなく、お互いの強み・弱みを客観的に知った上で、周りがさりげなくサポートし合える関係性をつくること。そして、そのための『自己理解を深める機会(場)を提供する』ことこそが、育成というテーマの素晴らしい着地点(目指す形)なんじゃないかと感じています。

正直なところ、Fさんの言っていた『評価を脇に置く』とか『真の傾聴』って、人間誰しも外ではいい顔をしたいですし(笑)、誰もが簡単にできることではないとも思うんです。

だからこそ、個人個人の『できていない部分(マイナス)』にフォーカスして正そうとするのではなく、お互いの認知の違いや凸凹を認め合いながら、『組織全体として関係性のフェーズをワンステップ上げていく』というイメージを持つ方が、ずっと健康的で納得感がありますよね。

Fさんとの対話を通して、育成とは単なるスキル注入ではなく、『安全な場で自己理解を深め、お互いを補い合える関係性を育むこと』なんだと、自分の中でひとつ大きな答えが見えた気がします。」

F

その安全な場づくりということがなかなか簡単ではないんですよね(笑)わたしは傾聴が基本になると考えています。それぞれから話や反応を引き出し、相互作用をみていき、まとめ上げていく作業になるからです。コミットの程度はもちろん違っていてよいのですが、置いて行かれていく人がいるとうまくいかない。本人のみならず、チームとして安全性を感じられないからです。理想論でお話してしまいましたが、私自身も基本をもう一度勉強し直さなければいけないと感じています。

今回は「育成」をテーマにお届けしました。それぞれの育成についての悩みや考えから、一つの答えを見出すことができました。自分が欠けていることもオープンに、補い合って仕事をする姿勢を、続く世代にも見せていけたらと思います。